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世界主要国の電気通信に関する詳細情報 17

17.シンガポール

 

1.報道内容に対する監視機構と罰則規定等について

 シンガポールの放送は、放送法(CHAPTER28 Broadcasting  Act) に基づき、情報通信メディア開発庁(InfocommMedia Development Authority IMDA)放送免許が細分化されており、放送免許に合わせ異なるコンテンツコードを用いて放送内容を規制している。

 コンテンツコードの分類は非常に細かく、テレビ放送だけでも無料放送テレビ放送番組コード・有料TV(サブスクリプションTV)番組コード、ニッチサービスコード(ニッチTVライセンスにより提供されるスケジュールTV放送及びオンデ、マンド放送(注:リニア及びノンリニア放送))、ビデオオンデ、マンド番組コード及びテレビ広告コード及びテレビ番組スポンサーシップコード(全てのTV放送に適用される)があり、ラジオ放送にもラジオ番組コードと、ラジオ広告&スポンサーシップコードが規定されている。また、シンガポールにおけるメディア規制はコンテンツ分野全体に及んでおり、放送以外にも様々なコードやガイドラインが用意されている。映画にはフィルム分類指針及び、広報資料ガイドラインが用意されており、ビデオゲームには分類ガイドライン及びビデオゲームのプロモーション及び広報資料のガイドライン、ソーシャルゲームに対するガイドライン(ソーシヤルゲームにおける遠隔賭博法(Remote Gambling Act) の適用範囲を定めるガイドライン)、輸入された書籍や雑誌等の出版物に適用される輸入刊行物の内容ガイドライン、地域生活誌のコンテンツガイドライン(新聞及び印刷出版法(NPPA) の許認可のためのガイドライン)、音楽ガイドライン、アートエンターテイメント分類コード(芸術活動の芸術性・教育性・文学性等に該当するコミュニティーの基準を提示)、インターネットの実践規範(インターネットコンテンツのコンテンツ規格(Broadcasting Act (Cap. 28)に規定)、音声テキストのコード、メディアマーケットの行動規範(メディアマーケットの公正な市場運営と効果的競争による高品質なメディアサービスの提供を目的とした市場倫理慣行の規範)、消費者保護を目的とした有料テレビサービスの最大契約期間及び早期終了料金に対するガイドライン等が定められている。

 以下に、無料放送テレビ番組コードを例にその概要を解説する。なお、無料放送は基本的に誰でも受信できるため、有料放送テレビ番組に比べ規制が厳しい傾向にある。

 まず、すべての番組はガイドラインに従い、一般(全年齢対象)のG、ベアレンタルガイダンスが必要なPG、13歳未満は保護者の同意(或いは共視聴)が必要となるPG13、16歳未満視聴禁止のNC16、成人及び18歳以上向けのM18、視聴を21歳以上に制限するR21の6段階に分類されており、G、PG、PG13までの番組のみが無料放送で許可されているため、無料放送に於いては子供向け番組ではなくても、また一般に子供が視聴しない時間帯であっても成人向け番組やそれに準じる内容の番組は放送されない。

子供向け番組は基本的に健全で広範な知識と社会的・道徳的な良い価値観の醸成に寄与する必要があり、特に14歳以下の子供は実生活と擬似的な状況の区別が難しく、暴力や恐怖等の現実的な描写が悪影響を与えるため、子供向け番組では、模倣しやすい危険な行動の表現も含め実写だけでなくアニメーションに於いても現実的なストーリーで過度な暴力等を避け、ユーモアやコメディ一等における表現やストーリー上必要な暴力であっても、その結果が適切に扱われるように配慮する必要がある。更に就学前の児童に対し影響を及ぼす暴力及び恐怖の描写のある番組については保護者に適切な警告の提供が推奨されているほか、飲酒の描写は原則として禁止されている。

 放送内容の前提として、シンガポールの法律とその施行に関する公共の利益や信頼を損ねる内容(国益に反する価値観や態度の促進、公衆に誤解を与え、警告を発する可能性のある情報、イデオロギー的メッセージを含む内容及び、それらを持つ外国人及びグループ等の宣伝、過激派及び政治的目的を持つメッセージ等)は禁止であり、特に(※多民族国家であり、イスラーム教徒が多数を占めるマレー系及びヒンズー教徒を中心とするインド系国民等への配慮のため)人種や宗教に関する事柄については、あらゆる人種や宗教の侮辱及びそれらの対立を扇動するか、扇動する可能性のある内容、或いは不寛容性及び誤解を招く可能性のある内容の禁止と、人種や宗教に対する言及は正確で威厳を保つ方法でなければならないほか、マレ一系の視聴者を主対象とした番組での接吻表現等、社会・文化に配慮したそれぞれの民族の感受性に留意する必要がある。

 加えて、家族を尊重し、結婚及び家庭の尊厳の尊重と、離婚についての表現は軽薄であってはならず、同棲等は推奨されるべきではない行為として描く必要があるほか、人種や宗教以外にも、性別や年齢、障碍、職業等による差別的表現は避ける必要があり、喫煙や飲酒等の行動は魅力的に描いてはならない

 また、子供に対する影響を考慮しそれらに対して不適切である可能性のある描写等に対しては特に慎重に扱う事と、子供向け番組は幅広い分野をバランスよく扱い且つ恐怖や性的暴力等を含まないものである必要がある。また、G、PGのプログラムであっても、子供及び青少年の育成に不適切な影響を及ぼす可能性のある内容はの番組については、それらの視聴者が多い可能性のある午前6時から午後10時までの時間帯には放送されないようにする配慮が必要であり、例えば恐怖や超自然的内容の番組は子供の視聴可能性の低い時間帯にのみ放送し、午後10時から午前6時まで放送可能なPG13の番組であっても、青少年の視聴が不適切な内容については午後10時以降であってもより遅い時間帯に向かつて徐々に公開するべきであると定められている。また、青少年の視聴が不適切な内容の番組については、具体的な内容(強い暴力・恐怖を伴うシーン等)の警告やラベル表示等を番組開始前に十分な通知(十分に識別可能な表現及び書体を用い、少なくとも5秒は表示される)を行い、PG及びPG13の番組は、番組開始後及びCM毎に1分間左上にそれらの警告表示を行う必要がある。また、新聞やテレビガイド等の番組ガイド(新聞のテレビ欄やテレビ番組紹介雑誌)等において、それぞれの番組についてPG及びPG13に該当する番組は、それらの表示及び具体的内容(ホラー・暴力等)を示す必要がある。

 犯罪や暴力等を扱う番組では、それら反社会的行動を促進しないような配慮が必要で、暴力行為の擁護表現は禁止され、特に問題解決の手段としての暴力の正当化、自己犠牲等の暴力的な行為、拷問、暴力組織同士の抗争、戦闘行為等の暴力的技法や行為、痛みや暴力に対する肯定的、或いはサデ、イスティックな表現、性的暴力または性的暴行の強制等の暴力と性的描写の融合行為等の表現は原則禁止であり、容易に子供が模倣できないような行為であり、且つ軽度な描写で、あればGで許可され、暴力的行為がストーリー上正当化されるような状況であり、且つ描写が残虐性や苦痛を伴わず、拷問等に該当しない場合、中程度の描写がPGでは許可される。

 犯罪行為に関しては、暴力団、破壊犯、犯罪者等やその組織に対する肯定的な表現は禁止されており、具体的な犯罪行為に関する報道では、人身売買等の情報漏洩、ハイジャックや誘拐等の犯罪への適切な対処に対しそれを損なう可能性のある情報を放送は禁止されている。また、フィクション・ノンフィクション(ドキュメンタリー)に関わらず、犯罪行為を扱う番組では、法執行やその他のセキュリティー対策等の対処についての情報の公開は、事前に警察等による確認と助言が必要である。

違法薬物等については、肯定的な表現は勿論の事、青少年による模倣の可能性があるため、摂取方法等の詳細な描写は禁止されている。

 性的表現については、ヌードはGには許可されておらず、控えめな表現で性的側面が無く且つストーリー上正当化される状況のみPGで許可され、側面であればPG13で許可される。母乳による育児等の健康番組におけるヌードは描写方法によりPGまたはPG13で許可されており、例外的な状況及び性を想起ささないような状況にのみ上半身の正面ヌードが許可されている(例として、第二次世界大戦時のホロゴースト等を扱う番組、部族の生活様式を扱う番組、授乳や乳癌等の保健番組等)。これらを合わせ、ポルノや狼憂な番組は全面的に禁止されており、同様に性行為を奨励する可能性のある番組も全面的に禁止されている。また、ニュース、時事問題及びドキュメンタリ一等の事実を伝える番組(広く報道番組)は、客観的で、正確且つバランスの取れた内容(公平性の確保と、対立する視点の呈示、事実の除外や誤解を招く表現の禁止等)である必要がある。

賭博及の表現については、その依存性に十分配慮し、奨励する表現や推進する表現、賭博に関する指導等を提供する番組は、それが合法的賭博で、あっても禁止され、非合法な賭博については厳重に禁止されているほか、ストーリー上必要な場合にのみ賭博表現が許されている。また、フーリガン等の破壊行為及び、少年非行等の表現や生活様式等についても同様に肯定的な表現は禁止されている。

 恐怖表現はGについては現実的、或いは過激な表現は禁止され、恐怖を想起する表現であっても軽度で心理的なものであってはならない。PGでは多少緩和されるが、恐怖表現が長時間や激しいものであることは禁止されているほか、その表現が迷信や霊魂、オカルト、エクソシズム等である場合は特に注意が必要であるほか、占い、風水、透視、数秘術、タロット、占星術等についてはそれが科学的に実証されているという印象を与えることが禁止されている。

 これらの番組の種類ではなく放送全般についての規制の他に、番組の種類ごとに様々な規制が定められている。ここではニュース番組についての規制を取り上げる。

 ニュース番組は、多様性を確保するため様々な視点を提示しバランスを取る必要があるほか、事実の除外、誤解を招く表現や強調の禁止と、内容の正確性・公平性・公正性を確保するために可能な限り合理的な努力を行う必要があるほか、伝達者の個人的見解を伴わず、解説と分析は明確に区別できるよう配慮する必要がある。更に、ニュースとして伝えるべき事実に対し不可欠ではない詳細な情報ついては報道を避ける配慮が必要で、特に性犯罪については犠牲者の特定に繋がる情報の提示は禁止されている。それ以外にも、被害者や犠牲者の映像の配信や、被害者及び遺族・証人等に対するインタビューでは十分に配慮を行う必要がある。加えて、個人情報や私的な事柄に関連するニュースの場合、それらに対する資料や情報の使用には細心の注意を払い、情報の開示がニュースとして伝える情報に対し不可欠であることに加え、公共の利益に寄与する場合にのみ許容される。

 また、間違いや不正な、虚偽の表現について、情報通信メディア開発庁(IMDA)は放送事業者に対し、訂正の指示と被害者に対し適切な媒体で対応する機会を与えることを指示する。特にニュース等の時事問題番組及びドキュメンタリ一番組の重大な誤りについては早急に訂正放送を行う必要がある。

 個人視点番組(Personal View Programs)においても、事実と個人の意見は事前公表及び番組内の双方に於いて明確に識別可能でなければならないほか、間違いや偏った分析等の訂正のため番組が適切に対応する必要がある。

事実を元にしたドラマ番組やドキュメンタリードラマ等のドラマ化された番組において、その構成において重要な事実の歪曲や架空の設定が事実として提示される表現は認められない。

 また、多民族国家であるシンガポール特有事項として言語についての規定がある。

 シンガポールには英語、中国語、マレ一語、タミール語の4つの公用語があるが、中国語、マレ一語、タミール語はそれぞ、れの民族以外で、は一般的に使用されないため、共通語としてシングリッシュと呼ばれる文法や表現、発音等がローカライズされたピジン英語が用いられる。ドラマ、コメディーバラエティーショーでは、ンンガポールアクセントによる英語でも構わないものの、ニュースや時事問題、教育プログラムでは文法的に正しい英語を使用する必要があり、インタビュー等で英語以外の場合は字幕または音声を添付する必要がある。また、芸術系の番組を除く中国語番組は北京語である必要があり、中国語方言は原則禁止である。マレー語番組に於いてもドラマやバラエティー番組等は規制が緩いものの、ニュース、時事問題、情報番組等では標準マレ一語を使用する必要がある。

 これらのコンテンツコードに違反する放送は原則禁止されており、違反した場合は20,000SGD(約170万円)未満の罰金または2年未満の懲役、或いはその双方が科せられる。

 

 放送法(CHAPTER 28 Broadcasting  Act) の全文は以下のWebサイトを参照

 http://statutes.agc.gov.sg/aolldownload/0/0/pdf/binaryFile/pdfFile.pdf?CompId:8de03c75-e8cc-40b0-9629-c8a3343d7146

 

 コンテンツコード一覧は下記のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/regulations-licensing-and-consulta tions/codes-of-practice-and-guidelines

 

 無料全国テレビ放送(Free-To-Air TV Program Code)のコンテンツコード詳細は下記のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/-/medialimda/files/regulation-licensing-and-consultationslcodes-ofpractice-and-guidelinesl acts -codes/01-industrytvcontentguidelinesftatvprogcode.pdf?la =en

 

 テレビ放送広告のコンテンツコード詳細は下記のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/-/media/imda/files/regulation-licensing-and-consultations/codes -ofpractice-and-guidelineslacts-codes/05-policiesandcontentguidelinestvtvadcode.pdf?la=en

 

 テレビ放送スポンサーコード詳細は下記のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/-/medialimda/files/regulation-licensing-and-consultationslcodes-ofpractice-and-guidelineslacts-codes/06-tv-programme-sponsorship-code-04062010.pdf?la =en

 

 無料ラジオ放送の広告とスポンサーコード詳細は以下のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/-/media/imda/files/regulation-licensing-and-consultationslcodes -ofpractice-and -guidelineslacts-codes/09-radioadvertisingandsponsorshipcode.pdf?la=en

 

 無料ラジオ放送のコンテンツコード詳細は下記のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/-/media/imda/files/regulation-licensing-and-consultations/codes-ofpractice-and-guidelineslacts-codes/08-policiesandcontentguidelinesradioradioprogcode.pdf?la=en

 

 

2. クロスメディアオーナーシップ等の報道機関の一定地域における情報提供の占有や支配に関する各種規制について

 シンガポールでは直接的にクロスメディアオーナーシップを規制する法制度自体は存在しないが、テレビ・ラジオ、新聞等のメディア企業聞の買収は情報通信メディア開発庁(IMDA)による承認が必要である。

 

・外資規制について

 放送法第44条により、外資比率または議決権比率が49%に制限されているほか、外国由来(シンガポール国籍以外、またはシンガポール以外で、設立された法人等)の役員数は半数以下で、外国の何らかの指示を受けない事等が規定されている。

 

 

3. 電波オークション制度について

 情報通信メディア開発庁(IMDA)により電波オークション(Spectrum Rights Auctions)が行われている。

 

・オークション等実施例

・2013年の1.8GHz帯の帯域幅150MHzと、2.5GHz帯の帯域幅120MHzの帯域幅合計270MHz、免許期間2030年6月末まで、2016年6月末までに全国カバレッジ、2018年6月末までにMRT全線でのカバレッジの義務が伴うオークションでは、3通信事業者により合計3億6000万SGD (約300億円)で落札された。

 

 シンガポールの電波オークション一覧及び詳細は下記のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/regulations-licensing-and-consultations/frameworks-and-policies/spectrum-management-and-coordination/spectrum-rights-auctions-and-assignment

 

 

4. 電波使用料等について

 電波使用料(Spectrum Fee) は、電気通信法によって、電波使用の用途と周波数、及び帯域幅等により細かく決められている。詳細はSpectrum Management HandbookのCHAPTER 9にまとめられている。

 

 電気通信法(Telecommunications Act CHAPTER 323) の全文は下記のWebサイトを参照

 http://statutes.agc.gov.sg/aol/download/0/0/pdf/binaryFile/pdfFile.pdf?CompId:350427cb-48f0-4069-a203-3a6effe75e95

 

 電波管理ハンドブック(SpectrumManagement Handbook) は下記のWebサイトを参照

 https://www.imda.gov.sg/-/media/imda/files/regulation-licensing-and -consultations/frameworks-and-policies/spectrum-management-and-coordination/spectrummgmthb.pdf?la=en

 

 

5. その他資料等

・監査機関等

 情報通信部門全般の統括と、放送・メディア及びコンテンツ等の規制と振興、各種ライセンス及び周波数管理、ITC振興、青少年と消費者の保護、郵便事業の統括全般は情報通信メディア開発庁(IMDA)が行っている。

 

(※リンク先が調査時(2017~2018年)から変更になっている場合は、各機関のHPルートに接続します)

IMDAが定める規則やライセンスの一覧は下記のWebサイトを参照

https://www.imda.gov.sg/regulations-licensing-and-consultations/acts-and-regulations

世界主要国の通信放送等に関する調査報告書 26