2. 英国
1.報道内容に対する監視機構と罰則規定等について
英国では、準司法的権限及び放送免許に関する権限を持つ情報通信庁(あるいは放送通信庁と訳される場合もあり) (Office of Communications(Ofcom)) (https://www.ofcom.org.uk/) が、有害コンテンツや情報の不公平な取扱い、プライパシーの侵害等の様々な放送内容についての問題に対し権限を利用して様々な規制や処置を行う。
具体的には、2003年通信法(CommunicationAct of 2003) 第319条により、犯罪行為の助長や扇動の禁止、不正行為の誘発の禁止、禁止された内容に関する政治広告の禁止、有害な内容,誤解される可能性のある内容侮辱的な内容の広告の禁止、番組の不適切な後援の禁止、広告掲載における広告主の差別の禁止、視聴者に対する情報伝達や心理に影響を及ぼす可能性を有する技術の使用禁止等の各種禁止事項に加え、宗教番組の内容の適正化、攻撃的・有害な内容が含まれないよう留意することや、18歳未満に対する有害情報からの保護、ニュースの充分な公正性・正確性の確保等が定められている。
違反に対し、訂正放送や陳謝放送命令のほか、罰金、放送免許期間の短縮や放送免許の取消等の処置がとられる。
また、英国のすべてのメディアにおける広告は広告基準局(Advertising Standards Authority(ASA) )により規制監督されている。規制は、広告活動委員会(The Committee of Advertising Practice (CAP)) により消費者保護法の原則に則り作成された規制コードである広告コードを基準に行われる。広告コードには情報通信庁(Ofcom) 管轄の全てのラジオ・テレビサービスが対象となる放送コード(The UK Code of Broadcast Advertising(BCAP)) と、ダイレクトマーケティング等の非放送広告に対する非放送コード(The UK Code of Non-broadcast Advertising and Direct & Promotional Marketing(CAP)) がある。
BCAPでは、広告は法律を遵守すると共に視聴者及び社会に対して責任感を持つべきであると定義され、広告はコンテンツと明確に区別可能である必要があり、実際に視聴者が広告として迅速に認識可能である必要がある。これは2008年公正取引規制による消費者保護法(The Consumer Protection from Unfair Trading Regulations 2008) の規定を考慮に入れたもので、誤解を招く恐れのある広告については、広告主の意図ではなく、消費者への影響の可能性に基づいて決定される。
広告が実質的に誤解を招くものであってはならないことは無論の事、消費者が商品やサービス等の購入判断の意思決定を行う上で重要な情報を省略して消費者を欺くものや、不明瞭、不自然な方法での提示、製品やサービスの誇張、購入の強要や圧迫的手法、更には文脈や時問、空間的制限により誤解を招く可能性のあるもの(フラッシュ広告等)についても同様であり、これらを含めたスーパーインポーズに関しては特別のガイダンスが用意されている。
また、送料等の明確である必要があるほか、プロモーション等で商品も含め無料や無償であるという提示は付帯する費用(梱包・取扱い管理手数料等)も含め費用が掛からないもの以外では禁止され、これらについても特別のガイダンスが用意されている。
広告全般のルールとしては、有害性や攻撃性があってはならず、未成年に肉体的・精神的・道徳的・社会的害を及ぼすものは含まれていてはならず、健康や安全を害するもの、人間の尊厳の尊重を害するもの、暴力、犯罪、障碍、反社会的行動の環境保護に影響を与える行動、過度な性的描写についても同様である。
具体的にはニコチン含有電子煙草を含む全ての煙草製品、銃及び銃レプリカ、ナイフ等殺傷を引き起こすことを目的に作られた攻撃的武器全般、売春及び性的マッサージサービス、1959年猥褻刊行物法(The Obscene Publications Act 1959) に規定される猥褻な素材、依存症の治療のための製品、ピラミッドプロモーションスキーム(所謂ねずみ講)等は原則禁止されている。なお、医薬品や治療法等の広告に関しては、保健省の執行機関である医薬品および医療機器の規制庁(Regulating Medicines and Medical Devices (MHRA))作成の英国に於ける医薬品の宣伝指針(The Blue Guide :Advertising and promotion of medicinies int the UK)に従う。
食品・食品添加物及び関連する健康または栄養に関する広告は、健康促進のため優れた食事と活発なライフスタイルを強調する必要があり、基本的には食品に関する栄養及び健康に関する欧州規則No1924/2006 (European Regulation (EC) No 1924/2006 on nutrition and health claims made on foods,published by the Department of Health)に従う。
健康強調表示を行う場合は食品及びその構成成分との聞に十分な関連がある必要があり、疾病リスクの低減に於いても同様で、食品及びその構成成分の消費により疾患の発症リスク因子を有意に減少させる必要がある。なお、栄養強調表示についてもEUの栄養強調表示基準(Nutrition Claims) に従う。
食べ物の過度な消費を奨励することは禁止され、ビタミン、ミネラルその他栄養補助食費についてもEUの基準に従う必要がある。
ラジオ広告に関しては運転中等の視聴を考慮し、安全上の危険を招く可能性のある音は含まれではならず、テレビ広告に関しては、情報通信庁(Ofcom) のテレビでの画像の点滅等に関するガイダンスに基づき、癒痛等に配慮し点滅パターン等の視覚効果は禁止されているほか、音量もプログラム中の最大音量より最低6dB低くなければならないほか、視聴者の視聴感覚に合わせた細かい基準が設けられている。
16歳未満の児童も特に保護される必要があり、児童が身体的、精神的、道徳的に害される可能性のある広告は児童が視聴しないように対象年齢別に午後7時半以降、或いは午後9時以降の放送時間制限がある。また、酒類や宝畿やサッカー畿、賞品ゲーム等の賭博、対象年齢とされないコンビューターゲーム、FSA(Food Standard Agency) 好評の栄養プロファイリングスキームに従い脂肪及び塩、砂糖(HFSS)が多い食品及び飲料の広告は子供向け番組の中やその周辺に配置することは禁止されている。更に、子供向け番組に定期的に出演している人物或いは人形等のキャラクターが、子供が特別に関心を持つ商品の提示や宣伝を行う広告を午前9時以前に放送してはならないほか、それらの人物の出演を含む広告は、関連番組の前後2時間以内に放送することはできない。加えて、同情、恐怖、忠誠心その他感情い訴えて商品を売り込もうとする広告は禁止され、商品により優位性を与える事の示唆や、子供及びその家族がその商品やサービスを購入しない場合に、劣等感を抱かせることや何かを失墜させることを意味するものであってはならない。
また、2003年通信法(Communication Act of 2003)第321条に示される政治的広告は禁止されており、この件に関しては広告基準局(ASA) ではなく情報通信庁(Ofcom)の管轄となり、具体的な禁止事項には選挙や国民投票に影響を与えるもの、国や地域の法律の改正や立法、政策に影響を与えるもの、その他公的機能が付与されてい人の方針や意思決定、政策等に影響を与えるものなどがある。
振興や宗教に関する広告に対する規則は、言論の自由と有害広告の防止のバランスを取ることを目的としており、信仰問の関係を損なうことで生じる社会的害悪の軽減と、若年者を保護し親が子供の道徳的・哲学的教育の選択を可能とするよう配慮するほか、潜在的有害広告が視聴者を悪用することを防ぐ必要がある。また、オカルトや精神的な習慣の促進や有効性を主張する広告は簡易且つ一般的に広範に適用可能なもの(例えば新聞の占星術)等を除き禁止されている。
また、脆弱な人々、高齢者、病人、遺族等に対し希望や恐怖を悪用した広告や、癒し、奇跡、信念に基づくカウンセリングが身体的、精神的健康問題の治療、治癒、緩和する事を信じさせるような広告も禁止されている。
放送コード(BCAP)に違反する広告を行ったと判断される場合は、広告の即時撤回や修正、中止を訂する必要があるほか、苦情等が正当であると広告基準局(ASA) が判断を下した場合当該放送事業者に対し訴訟を行う場合がある。これらの審査プロセスに関する情報は広告基準局(ASA)の放送苦情処理手続き書(Broadcast Complaint Handling Procedures document) として公表されるほか、重大な違反や重複した違反の場合はASAではなく情報通信庁(Ofcom) による警告、放送訂正、罰金、放送免許の短縮や取消の制裁が科される。
また、商用ラジオ放送に関しては、英国全体の278のライセンスラジオ局とリスナー数及び収益で90%を占める放送局が属している業界団体であるラジオセンター(Radiocentre) がある。
ラジオセンター(Radiocentre) は、ラジオ業界全体の意見を代表しながら政府、特に情報通信庁(Ofcom) と協力し、Ofcom放送コードと広告基準局(ASA) の放送コード(BCAP) の基準に準拠し、メディアの発展に最適な環境を確保している。
広告に関しては、特に消費者金融及び投資、複雑な金融商品、賭博的性質を持つ製品及びサービス、酒類、医療及び健康美容製品、食品及び栄養、サプリメント、成人向け性的娯楽サービス及び出会い系等紹介サービス、政治的思想的問題を含む公的論争等、宗教団体、慈善目的、成人向け映画・DVD・ゲーム等は、特別なカテゴリーとして様々な制限がなされている。
Ofcomの規制内容等を含めた規定全体は以下のWebサイトを参照
https://www.ofcom.org.uk/tv-radio-and-on-demand/broadcast-codes/broadcast-code
(参考:NHKによるレポート,総務省のレポート)
Ofcomの報道に関する規制内容(Part3 Chapter4) は以下のWebサイトを参照
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2003/211part/3/chapter/4
Ofcomの罰則規定適用に関するガイドラインの詳細は以下のWebサイトを参照
https://www.ofcom.org.uk/_data /assets/pdf_file/0022/106267/Penalty-Guidelines-September-2017.pdf
放送コード(The UK Code of Broadcast Advertising(BCAP)) の詳細は以下のWebサイトを参照
https://www.asa.org.uk/uploads/assets/uploaded/526914b7-de7f-4cf6-86afe08684d22885.pdf
放送苦情処理手続き書(BroadcastComplaint Handling Procedures document) の詳細は以下のWebサイトを参照
ラジオセンター(Radiocentre) の詳細は以下のWebサイトを参照
FSA (Food Standard Agency) の栄養プロファイリングスキームの詳細は以下のWebサイトを参照
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/216094/dh_123492.pdf
医薬品および医療機器の規制庁(RegulatingMedicines and Medical Devices (MHRA))作成の英国に於ける医薬品の宣伝指針(The Blue Guide Advertising and promotion of medicinies int the UK) の詳細については以下のWebサイトを参照
http://www.mhra.gov.uk/home/groups/pl-a/documents/publication/con2022589.pdf
食品に関する栄養及び健康に関する欧州規則No1924/2006 (European Regulation (EC) No 1924/2006 on nutrition and health claims made on foods,published by the Department of Health) についての詳細は以下のWebサイトを参照
EUの栄養強調表示基準(NutritionClaims) の詳細については以下のWebサイトを参照
https://ec.europa.eu/food/safety/labelling_nutrition/claims/nutrition_claims_en
2008年公正取引規制による消費者保護法(TheConsumer Protection from U nfair Trading Regulations 2008) の詳細は以下のWebサイトを参照
http://www.legislation.gov.uk/uksi/2008/1277/contents/made
2. クロスメディアオーナーシップ等の報道機関の一定地域における情報提供の占有や支配に関する各種規制について
2003年通信法により市場に顕著な支配力を持つ通信事業者は、情報通信庁(Ofcom) により多様性確保を理由として規制されるほか、新聞・テレビ・ラジオ等、ローカル局と全国局等で細かい規制を定めたメディア規制が存在する。
Ofcomによるメディアオーナーシップのルールについての詳細は以下のWebサイトを参照
https://www.ofcom.org.uk/__data/assets/pdf_file/0030/127929/Media-ownership-rules-report-2018.pdf
・外資規制について
1998年競争法(CompetitionAct of 1998)及び2000年公共事業法(UtilityAct of 2000)、2002年社会法(EnterpriseAct Of 2002)に定めるところにより、基本的に外資規制は存在しないが、放送事業免許に関しては、国家安全保障を理由に免許適格審査で申請を認めない場合が存在する。また、2003年通信法には外資規制撤廃条項が存在するが、その中に多様性審査条項(第375条)が盛り込まれており、米国資本等の強力な外資による放送局の合併・寡占化による多様性喪失を未然に防ぐ処置が施されているほか、同第349条により地方自治体は自己のコミュニティーに対する放送免許の取得の道が用意されている。なお、EUにおいては市場開放を原則としながらも、多様性の確保については十分な配慮がなされている。
3. 電波オークション制度について
英国の電波オークション制度には、競争を促すため新規事業者が割安価格で獲得できる保留周波数制及び特定事業者への集中を防ぐ周波数ギャップ(保有周波数の量の上限を定める制度)があり、特定の業者が特定の周波数帯において全体の36%(条件により37%) を超えてはならないことと、特定の業者が1GHz以下の周波数帯において全体の42%を超えてはならない等の制限が設けられている。
電波オークション制度の詳細については以下のWebサイトを参照
http://www.legislation.gov.uk/uksi/2012/2817/pdfs/uksi_20122817_en.pdf
・オークション実施例
2013年のオークション(800MHz帯60MHz幅及び2.6GHz帯185MHz幅) では、総計2,341,113,000£ (約3500億円)で落札されている。
但し、オークション落札事業者は、オークションで取得した周波数帯に於いて、800MHz帯について2017年度末までに英国人口全体の98%のカバレッジが義務付けられ、更にイングランド・北アイルランド・スコットランド・ウエールズ、の其々の地域に於いて人口の95%以上のカバレッジが義務付けられている。また、免許期間は原則無期限であるが、免許取得後20年以降は周波数管理を理由にOfcomによる免許取消が可能となっている。
4. 電波使用料等について
英国の無線電信法免許料(Wireless Telegraphy Act License Fee) は1年毎に更新される制度を執っており、年間免許料は周波数オークション落札額、海外の周波数オークションの結果(参考資料)、当該周波数帯使用時の技術的・商業的特徴等から算出され、毎年見直しが行われるが、近年は下落傾向にある。
なお、英国の無線電信免許料はオークション帯域についてはオークション収入が無線電信免許料に一部充当される(オークション価格に当該無線電信免許料が含まれているためオークション落札者は別に無線電信免許料を支払う必要がない。非オークション帯域で年間免許料が科せられている周波数帯についても、年間免許料に無線電信免許料が含まれている。
テレビ放送等の電波使用料は以下の通りである。
・全国テレビ守放送用マルチプレックス:188,000£/年(約2800万円)
・ローカルテレビ用マルチプレックス:23,900£/年(約350万円)
・北部アイルランドテレビ用マルチプレックス:3,360£/年(約50万円)
また、移動通信体等の帯域における無線電信免許料は以下に示す額である(2015年)
・900MHz帯の1MHz帯域あたり年間使用料:1,128,000£ (約1億7千万円)
・1.8GHz帯の1MHz帯域あたり年間使用量:815,000£ (約1億2千万円)
移動通信事業者の無線電信免許料の総額199,600,000£ (約295億円)
無線電信法免許料の詳細については以下のWebサイトを参照
https://www.ofcom.org.uk/__data/assets/pdf_file/0022/59125/annex.pdf
5. その他資料等
・監査機関等
英国における通信分野は文化・メディア・スポーツ省(Departmentfor Digital,Culture Media & Sport DCMS)及びビジネス・エネルギー・産業戦略省(Departmentfor Business,Energy and Industrial Strategy BEIS) が行い、情報通信庁(Officeof Communications Ofcom)が規制監督を行うほか、市場競争の適正化等は競争市場庁(Competitionand Markets Authority CMA) を中心に、情報コミッショナーオフィス(Information Commissioner's Office ICO) によって行われている。なお、各省庁との連動は内閣府(Cabinet Office) によって行われる。
・関係法令等(抜粋)
・基本法令:2003年通信法 (Communications Act 2003)
BBCやITV等の公共サービス放送事業者(Public Service Broadcasters) に対する総括的な規制の適用、1998年競争法及び2002年企業法に基づく放送を含む情報通信分野の競争規則の適用、コンテンツ評議会の設置、電気通信システムの免許要件のEUの規制枠組みに合わせた変更、周波数取引システムの導入、消費者保護を目的とした消費者審議会の設置等。
・2006年無線電信法 (Wireless Telegraphy Act 2006)
電波監理の基本法令。既存の6つの無線通信に関する法律をまとめ統括したもの。
・2011年電子通信及び無線電信規制 (Electronic Communications and Wireless Telegraphy Regulations 2011)
EUの「よりよい規制指示(Better Regulation Directive)」 及び「市民の権利指示(Citizens' Rights Directive) 」の実装のため既存の通信法と無線電信法の改正を行ったもの。
・2010年ディジタル経済法 (Digital Economy Act 2010)
インターネット普及やコンテンツ振興等のITC政策促進を実施するため、英国の通信基盤の整備推進、放送制度の改正、ネット上の著作権保護、ビデオゲームの安全対策等を定めた法令。
(※リンク先が調査時(2017~2018年)から変更になっている場合は、各機関のHPルートもしくは新アドレスに接続します)
世界主要国の通信放送等に関する調査報告書 11
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