以下に、調査項目についての世界的な傾向についての概略を示す。
1.報道内容に対する監視機構と罰則規定等について
報道内容に関する監視機構と罰則規定においては、それぞれの国情を反映した内容となっているが、原則としてそれぞれの国の報道に関する規制や管理を行う根拠法令として放送法や電気通信法等が用意されており、それらと独占禁止法等の公平な競争の阻害となる要因を禁止する各種法制度の組み合わせで規制が行われており、人権や差別等の問題に関しては憲法で定められているが、報道内容に関するそれ以外の細かい内容、例えば青少年に害がある内容に対する配慮の方法等や、国情を反映し禁止されている内容等については、多くの国で特別法やガイドライン等において再定義されている。
また、国情を反映した内容として顕著にみられるのは多民族国家における多様性の維持についての項目である。それぞれの民族で使用される言語での放送が放送時間単位で一定の割合以上になるように義務付ける法令や、多様性維持を実現するため情報発信機会の喪失を防ぐために中央の放送局に比し地域の弱小放送局等に対する補助金制度や優遇等の配慮、がなされている場合が多い。また、青少年の健全な育成に対する配慮を中心とした広告に関する規制も多くの国で行われている。また、自国より強大な敵対的、或いは非友好的な国家と隣接している国に於いては、原則として自国保護のための様々な配慮がなされている。
放送内容についての違反に対する罰則に関しては、ほとんどの国に於いてその違反の内容や程度に応じ警告や修正放送の義務付け、更には罰金、当該番組放送の一時停止、放送免許の一時停止、放送免許更新期間の短縮、放送免許取消等の処置が執られ、政治や国家に対する重大な違反等に関しては責任者等に対する刑事罰が適用される場合もみられる。
また、EU 諸国に関しては、加盟国はEU 諸国共通の規則(視聴覚メディアサービス指令Audiovisual Media Service Directive AVMSD)に準じる必要があり、これらに準拠した上で各国諸事情に対応する必要があるが、必ずしもAVMSDが厳密に順守されているわけではなく、AVMSD違反により欧州委員会の告発を度々受ける国も少なくないのが現状である。
なお、放送内容に関する検閲自体は、多くの国の憲法で定められている基本的な権利である国民の知る権利や表現の自由等に抵触するため実施されている国はあまり多くはないが、イスラーム教圏の国家ではイスラーム教の教義に反する放送を規制することを主目的に、また、非民主主義国家や事実上の独裁国家、或いは専制国家、旧共産圏諸国の一部では、レベルの差や実施の事実の公然・非公然等の差異等がみられるものの、反国家・反政府的思想、を中心に検閲や何らかの事前調査の実施や、放送内容の事前通告が義務付けられている国もみられる。しかし、それらを除く多くの民主主義国家では検閲は原則として行われておらず、憲法を原則とした様々な国民の普遍的な権利を棄損しないようにするために、政府の干渉を極力受けないよう配慮がなされている国も少なくない。
しかし、いずれの国家に於いても全く規制が無く如何なる内容であっても自由に放送できるわけではない。また、基本的に放送の自由を標博している国家に於いても、報道内容に関し報道機関による自主規制と良心のみに頼り、報道機関から独立した何らかの外部監視機構等を用いた規制等を全く行なわない方針の国は皆無であり、多くの国では少なくとも形式上は政府から独立した監視機関が、またいくつかの国で、は政府直属の監視機関が存在し、これらに一定の法的権限や実行権限・拘束力等を付与し、それら監視機関の運営を助ける様々な特別法やガイドライン、放送コード、違反に対する様々な罰則規定が設定され、また、一般視聴者からの苦情や申し立て等を広く受け付ける補助機関が設置されており、報道機関の違反に対し罰金や放送免許取消等の様々な処置が執られている。
政府により一定の権限を委譲され管理を行う独立した監視機構で、あっても実質的には政府の外郭機関として機能しているが、それら監視機構を運営実施する国々では規制の対象は基本的に公序良俗に反することや、暴力・性・差別・犯罪等や煙草・アルコールの広告等を中心に主に青少年の健全な発育を阻害する内容と、諸国の特殊事情を反映した内容についての規制が中心であり、宗教や思想等に関するものは公序良俗に反しない限り特に規制が行われていない場合が殆どである。更に、多くの国で年齢を基準とした放送コードを導入しており、番組は放送コードにより概ね4~5段階程度に分類されており、コードのレベルに合わせ放送時間等が制限されるほか、番組の冒頭にコード表示を義務付けている国や、機械によるべアレンタルロック等により半強制的に視聴制限を掛ける処置を実施している国もある。また、これらの制限については、電波によるリニア放送だけではなく、リニア・ノンリニアを問わずインターネットも含む広くメディア全体に対して実施している国もあり、報道や表現の自由等を極力維持しながらも健全な社会と青少年の育成及びフェイクニュース等も含めた反社会的な扇動等の防止のため、あらゆるメディアや情報に対しその提供者に何らかの責任を持たせる仕組みづくりがなされている国もみられ、これらの処置を行う国々では、メディア提供者には放送事業者と同様に一定の監督を行うほか、ブロード、バンドネットサービス提供の要件として一定の監督や審査に対する負担を義務付けている場合もある。
情報の正確さや公正さの保持義務、意図的な事実の歪曲等に対する禁止に関しては、多くの国で国民の知る権利その他憲法により保障されているそれらに付随した普遍の権利として保障されており、それに対し各国の放送法或いは類似法制等の関連法規で直接的に禁止しており、それらの違反に対する厳密な罰則を設けている国と、情報の正確さや中立性、公正さに留意する必要がある等の努力目標、或いは注意義務として設定されている国、各種商法や消費者保護法等の他の法律を援用し対応する国など様々であるが、いずれにせよ殆どの国で独立した政府系監視機構が存在し、それらの情報内容の不備により被害を受けた個人・団体等の救済措置を含め、何らかの形で公正さや正確さに欠く報道内容や報道機関等に対する告発や糾弾の機会が用意されており、それに対し報道機関に対し一定期間内に何らかの回答や釈明等を行う義務を課している国も多く、更にその不公正や不正確さが認められた場合には実施期限付きの速やかな訂正放送を義務付けている場合も少なくない。更に、ジャーナリズム側が情報の正確さや公正さを理念、に掲げ統合し、自らを律するための組織を構成している国も見られ、これらについてはメディアの保護と独立を主目的にしたものが中心であるものの、自らの報道内容に責任を持ち自主的に公正さを追求し、自らの発した情報により個人の尊厳や権利が阻害された場合は自主的に対応を行う点が政府系監視機構とは異なる。これらの点においては、我が国の報道内容に対する監視機構と罰則規定は世界的には極めて特異であり、罰則も非常に軽微であるといえる。
なお、近年社会問題化しつつあるフェイクニュース等については、その情報源の多くは報道機関由来ではなく、殆どの場合がインターネット等で、のニュースや、ソーシャルネットワークを用いた「噂」がネットワークにより猛烈な勢いで拡散した結果によるものである。これらに対する対処は各国で分かれているが、近年大幅に増加しているインターネットを用いた各種犯罪等も含め、広くICTを含めた電気情報通信全般に関する公正と違法性の排除を目的とした新たな監視機関の設立や法整備を含め欧米諸国を中心に対応が急がれているのが現状でありる。
また、所謂報道しない自由、といった情報の取捨選択に関する不公平、或いは不公正に対し直接的に規制する法律や、それらに対する直接的な罰則等を設けている国は無く、内容や事実の改変については前記のように禁止や罰則が設けられているものの、基本的には報道の自由に付帯する報道する側の取捨選択の自由として放置されているのが現状である。但し、欧州各国を中心に、メディアの多様化と多文化保護と同時に国民が自由に多様な情報にアクセスする権利を保障している国は多く、実際に中小メディアの保護や支援を行うことにより、これら報道しない自由に対し間接的にそれを防ぐ処置が執られているほか、放送法等の中で理念として報道番組や討論番組では多様な意見を取り上げることを原則としている場合もある。
先進国を中心に、多くの国でインターネットの急速な普及と産業への応用、それらの有効的な活用と無原則に広がることに対する規制、また活用のためのルール作り、更には国家戦略としてのICT戦略と、個人情報保護や健全な市場形成のための様々な施策を執り行うために省庁の再編成を行い、インターネットや移動通信体、更には通常の放送等も含め広く通信と情報、情報セキュリティー等に関して統合的に扱う省庁を新たに立ち上げる国が現れているほか、各国に設けられている規制機関、或いは広域規制機関等が互いに定期的な交流を持ち、情報規制と公正性の維持等について様々な情報交換を行っている。
報道機関に対する社会の安定化と国民の利益に寄与することを前提とした、自主・外部を問わない各種情報規制や公正さ維持のための仕組みづくり、それらの内容や方法論等も含めた様々な情報交換については、我が国の対応はかなり遅れているのが実情である。
世界主要国の通信放送等に関する調査報告書 3
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